-月刊EQD-
Yuichiro Hosokawa
<Vol.10>
プルームス(オーバードライブ)
ブルームス(ベースオーバードライブ)
<モデル発表日>
プルームス:2019年8月3日(EarthQuaker Day当日)
ブルームス:2024年1月4日
<イントロダクション>
ブランドの創始者であるジェイミー・スティルマンにEQDペダルの開発秘話やオススメの使い方などを紹介してもらいながら、エフェクター研究家である細川雄一郎(CULT)の製品レビューを通して製品の魅力を紹介していく連載『Pedal of the Month -月刊EQD-』。第10回目に紹介するのは、EQDのトップセラー・モデルのひとつであるプルームス(オーバードライブ)&ブルームス(ベースオーバードライブ)です。
細川雄一郎(CULT)
EQDの遺伝子が注ぎ込まれた
オルタナティブなオーバードライブ
一時期、世界中で大流行した“TS系”なるペダル。TSとは“Tube Screamer”の略で、文字どおりアイバニーズのオーバードライブペダルの名作“チューブスクリーマー”の回路を参考にしたり、一部を改変して作られたペダル群のことを指します。チューブスクリーマー特有の中域の絶妙な盛り上がり、弾きやすさを感じる適度なコンプ感、ギターの原音が分かるような自然な歪み方が非常に有用であることや、回路上での自由度の高さから、さまざまなメーカーが同系のペダルを作るに至りました。
世界中に多く存在するTS系ペダルの中には、TS回路を丸っとパク......いや、その回路を忠実に再現したものもあれば、回路の多くの部分を改変し、ブランド独自の味を作り出している製品もあります。前者の多くは非常に商業的な理由で生まれたペダルであり、後者は“ブランドの意志を再現する”といったクリエイティブな理由から生まれたペダルであると言えるでしょう。さて、今回紹介するプルームス、ブルームスもTS系に属するペダルですが、その内容はいかなるものか。
プルームスはTS系でありながら、設計者であるジェイミー・スティルマン(EQD創設者)のDNAがたっぷりと注ぎ込まれた“実にEQDらしい”オーバードライブ・ペダルである、と断言できます。
純粋なTS系の音色といえば、丁寧に整えられた歪みの質感やレンジ感などが特徴ですが、プルームスの音色はTS系の中でも派手さがあり、ペダル独自の個性を主張しているように感じます。加えて、高域が鋭く、ピッキングを際立たせるザラ付き成分が混じり、同時に音色全体の腰を据わらせるような、しっかりとした中低域の量感があります。しかし、それでもTS系らしいコンプ感や、ミドルの盛り上がりも合わせ持っているのです。一言でいえば“オルタナなTS”、“TSなのにオルタナ”とも言えるでしょう。整頓されたとか、綺麗といったベクトルとは大きく異なる、ワイルドな音色が非常に魅力的なのです。
ブルームスは、プルームスをベース用にチューニングしたペダルで、基本的な音色、機能はプルームスと同様ながら、低域の太さが増強され、歪み量も少し多くなっています。ベースで太いオーバードライブ・サウンドを作る時に使える一方、実はギターとの相性も良好で、プルームスよりも広いレンジ感のあるオーバードライブ・サウンドを作ることも可能です。
回路の面から見ても、“ただのTSコピーは作るまい”とするオルタナな精神を随所に感じます。EQDのペダルには、そのようなオルタナティブな精神が反映されているのかもしれません。
ジェイミー・スティルマン(EQD代表)
EQDの創立者であり、さまざまなバンドで演奏を楽しんでいるプレイヤーでもあるジェイミー・スティルマン。独創的なアイデアをペダルとして具現化させている彼に、プルームスとブルームスの開発背景について語ってもらいました。
2012年、EQD副社長であり妻でもあるジュリーは、メールや電話、出会うさまざまな人から“EQDのラインナップでチューブスクリーマー的なペダルはどれ?”という質問を受け続けていました。そして毎回、“どれも違います”という答えを返していました。当時、さまざまなペダルブランドが、自分たちなりの解釈でTS808系オーバードライブを製作していましたが、EQDは作っていなかったのです。そのような状況にも関わらず、TS系の問い合わせが延々と続くので、ついにジュリーが“こんなにも欲しい人がいるのなら作ったら?”と私に言いました。ですが私は、世の多くの人々がTS808に惹かれる理由を理解できずにいましたし、私自身もTS808に関しては特に好きなペダルではなかったので、なかなか開発に踏み切れないでいました。しかし、縁遠い存在であるからこそ、ある意味で私自身のチャレンジになると思い、TS系ペダルを開発をしてみようと思い立ったのです。
ですが、そもそも好きでもないペダルを、どうやったら自分の好きな形にできるのか……さまざまな試行錯誤の果てにたどり着いた答えが、当時すでに廃盤となっていたパリセイズ(メガオーバードライブ)というオーバードライブ・ペダルでした。実は、パリセイズを開発した段階で、現在のプルームスの回路はすでに完成していたのです。その基板は、プロトタイプとして何年もお蔵入りしていましたが、私はなぜかとても惹かれるものがあったので、パリセイズの回路に何度も手を加えながら開発を進め、2019年にプルームスとして商品化すると、瞬く間にEQDのトップセラー商品となったのです。
ちなみにプルームス(羽毛)という名前の由来は、このペダルの歪みサウンドからインスピレーションを得ました。筐体のグラフィックパターンは、日本へ出張した時に思いつきました。日本では、よく見かけるグラフィックパターンですよね。私には、どことなく煙のようにも見えたのです。
そしてベースオーバードライブであるブルームスは、ある楽器店のために作ろうと考えていた製品だったのですが、完成したペダルを私自身がとても気に入ってしまったので、自社のアイテムとして商品化することに決めました(笑)。最初は、プルームスをモディファイする形でゲインを高くしようと考えていましたが、途中で低域をブーストしたほうがおもしろいのではないかと思いつき、試してみたところベースとの相性は抜群に素晴らしいものでした。それまでEQDのラインナップには、ベースに特化したペダルがなかったので、プルームスのベースバージョン=ブルームスとしてリリースすることにしたのです。もちろんギターにもバッチリ合うペダルで、特にドロップ・チューニングのギターと合わせて使うと最高ですよ!
<Jamie’s Settings>
Mode: 1(Symmetrical )
Level: 11時
Tone: 10〜1時(使用するギターやベースとアンプによって数値を調整)
Gain: 11時
※プルームス&ブルームス共通のセッティング
どんな機材とも合いますが、プルームスに関しては、ハムバッカーを搭載したギターをフェンダー・スタイルのクリーン・アンプにつないで、少し中域を削ったセッティングで鳴らすと、とても素晴らしいサウンドを作ることができますね。ブルームスは、プレシジョン・ベースとアンペグSVTを組み合わせて使うのがオススメです。特に私はソリッドステートのSVT450が好きなのですが、もちろん真空管のSVTともバッチリ合いますよ。
細川雄一郎(CULT)
大手楽器店にて約10年間、エフェクターの専任として勤務し、多くの著名なプロミュージシャンから信頼を集め、2016年に独立。並行して担当していた専門誌での連載コラム、各種ムック本などでの執筆活動を続けながら、ギターテックとしても活動。エフェクターのコレクターとしても世界に名を知られており、自身のエフェクター専門ウェブショップ“CULT”を2018年にオープンし、2020年には自身のコレクションに関する書籍『CULT of Pedals』を執筆、リットーミュージックより出版された。ペダル以外にハンバーガーをこよなく愛し、ハンバーガーに関する書籍などにも登場することがある。
尾藤雅哉
2005年にリットーミュージック『ギター・マガジン』編集部でキャリアをスタートし、2014年からは『ギター・マガジン』編集長、2019年には同誌プロデューサーを歴任。担当編集書籍として『アベフトシ / THEE MICHELLE GUN ELEPHANT』、『CULT of Pedal』など。2021年に独立し、真島昌利『ROCK&ROLL RECORDER』、チバユウスケ『EVE OF DESTRUCTION』、古市コータロー『Heroes In My Life』の企画・編集を手がける。2024年には、コンテンツ・カンパニー“BITTERS.inc”を設立。
西槇太一
1980年東京生まれ。8年間ほどミュージシャンのマネージメント経験を経て、フォトグラファーに転身。スタジアムからライブハウスまで、さまざまなアーティストのライブで巻き起こる熱狂の瞬間を記録した写真の数々は、多方面から大きな支持を集めている。またミュージシャンの宣材写真やCDを始めとする音楽作品のジャケット、さらには楽器メーカーの製品写真の撮影なども手がけるなど、音楽シーンを中心に精力的に活動中。また自身のライフワークとして撮り続けている“家族写真”にスポットを当てた個展も不定期に開催している。