-月刊EQD-
Yuichiro Hosokawa
<Vol.11>
ゲイリー(オートマチックパルスモジュレーションファズ + オーバードライブ)
<モデル発表日>
2024年11月14日
<イントロダクション>
ブランドの創始者であるジェイミー・スティルマンにEQDペダルの開発秘話やオススメの使い方などを紹介してもらいながら、エフェクター研究家である細川雄一郎(CULT)の製品レビューを通して製品の魅力を紹介していく連載『Pedal of the Month -月刊EQD-』。第11回目に紹介するのは、粗暴なローファイ・ファズと高品位なオーバードライブを1台の筐体に収めたゲイリー(オートマチックパルスモジュレーションファズ + オーバードライブ)です。
細川雄一郎(CULT)
飛び道具的ファズと実用的オーバドライブを
1台にまとめた異種格闘技的ペダル
マトモなオーバードライブとガラの悪いファズ。種類の異なる2つのエフェクトを1台にまとめた異種格闘技戦的ペダル、それがこのゲイリーです。
本体を正面から見て、右半分がガラの悪いファズのチャンネル、左半分がマトモなオーバードライブのチャンネルとなり、各チャンネルに2つのノブ、1つのフットスイッチが配置されています。一般的に複数チャンネル仕様のドライブ・ペダルは操作系統が複雑になりやすく、余計なノブの数も多くなりがちですが、このゲイリーの操作系統はとてもシンプルにまとめられており、多くのプレイヤーにとって扱いやすいことでしょう。ただし、音色はクセが強く、扱いにはペダラーとしての鍛錬が必要です。
特にクセが強いのが、ファズ・チャンネルの音色。公式では“オートマチック・パルス・モジュレーション・ファズ”と謳われており、その長々しい名前からも取っ付きにくいことは明らかでしょう。僕が、このファズ・チャンネルの音色にもっと分かりやすい名前を付けるとすれば、“エンヴェロープ・ローファイ・ファズ”でしょうか。
ファズの基本的な音色は、レトロゲームの効果音を彷彿とさせる、サンプリングレートを下げたようなガビガビなサウンドで、そこに入力のエンヴェロープ(信号の強弱)によってフィルターのカットオフ周波数が変わるような効果が加わっています。例えば、強く弾いた瞬間はローカットがかかり、蚊の羽音のような細い音色となり、その後に信号が弱まっていくと徐々にサステインが太くなっていく、といったような効果です。そのエンヴェロープの感度は“YES!”コントロールで調整することができ、反時計方向に回し切ればエンヴェロープの効果を消し、常に野太いファズを出し続けることも可能です。また、筐体側面にある“EXP”ジャックにエクスプレッション・コントローラーを接続すれば、エンヴェロープで動いていたフィルター的な効果をペダルで操作することも可能です。
ファズのチャンネルとは対照的に、オーバードライブのチャンネルは扱いやすく、秀逸な音色です。低域側にレンジが広く、原音の低域を損なわない、真の意味で太いオーバードライブ・サウンドを作ることができます。ギター・ボリュームへの追従性もあり、このシンプルなオーバードライブ・チャンネルだけでもゲイリーには十分な価値があると言えます。
冒頭では異種格闘技的なペダルと紹介しましたが、実はファズ・チャンネルとオーバードライブ・チャンネルとの相性は非常に良く、両者を同時に使用した際の音色もまた秀逸なのです。ファズ・チャンネルにある、レトロゲームで聴けるようなガビガビなサウンドを音の太いオーバードライブ・チャンネルが補助し、聴こえやすいドライブ・サウンドに作り変えてくれるのです。
秀逸なオーバードライブとローファイなファズという、異質な組み合わせの1台ですが、実用できる形に収まっているのはアースクエイカーデヴァイセスならではのセンスによるものでしょう。飛び道具ながら、曲中でもしっかり使えそうなゲイリーをぜひお試しあれ。
ジェイミー・スティルマン(EQD代表)
EQDの創立者であり、さまざまなバンドで演奏を楽しんでいるプレイヤーでもあるジェイミー・スティルマン。独創的なアイデアをペダルとして具現化させている彼に、ゲイリーの開発背景について語ってもらいました。
ゲイリーというペダルが誕生したのは、イギリスのポストパンク・バンド=アイドルズのギタリストであるリー・キアナンから、“グレイチャンネル(2チャンネルオーバードライブ/現在は廃番)に搭載されているグリーン・チャンネルをクリッピング・ダイオードなしの仕様で作ってほしい”と依頼されたことがきっかけでした。リーは、グレイチャンネルの歪みサウンドを長年にわたってブースターとして使っていたため、他の機能は特に必要なかったのです。そして私は、以前からアイドルズの大ファンだったので、このプロジェクトが決まった時には本当にテンションが上がりました。
まず私はリーのために専用のペダルを1台だけ作り、それをクリーブランドで行なわれたアイドルズのコンサートに持って行きました。そこでリーが“ゲイリー”という名前を提案してくれたんです。というのもリーは、いつもグレイチャンネル(Gray Channel)の名前をタイピングしようとすると、毎回“ゲイリー・チャンネル(Gary Channel)”と自動変換されてしまうそうで、それならばいっそのことモデル名にしてしまおう、となったのです。このネーミングは、私自身すごく気に入っています。
ゲイリーの開発に当たり、私の中には単純なブースターではなく“2-in-1のペダル”にしようというアイデアを持っていました。加えてリーからのリクエストは、“壊れた音がするファズ”というものでした。普段の私は壊れた音がするペダルを作ることはないのですが、彼の思い描くイメージについて詳しく話を聞くと、リーが求めていたのは“アタックと同時に音が消え、サステインと共に蘇ってくるファズ”というものだったのです。
私は2セットのプロトタイプの開発を経て、ようやく波形の長さを自在に変化させられるファズ(ヴァリアブル・パルス・ウィドゥス・ファズ)にたどり着くことができました。この時点で、リーが求めていたペダルとして申し分のない完成度だったのですが、私は“Yes!”ノブ(ピックアタックへの反応感度をコントロールするツマミ)を下げた時に超ヘヴィなスクエア・ウェーブ・ファズ・サウンドを得られるアイデアを思いつきました。 “Yes!”ノブの設定が9時~11時あたりから徐々に波形の間隔(パルス・ウィドゥス)に変化が起こり、 つまみを回すとどんどんその波形の間隔が狭くなっていきます。そしてピックアタックが強いほど音が消えていくのです。この仕様は……お互いにとって“Win-Win”の関係ではないでしょうか。
そして最終的にリー自身がノブのネーミングを決め、ペダルのグラフィックデザインはリーのパートナーであるシャーロット・ゴッシュが手掛けました。とても素晴らしいアイデアだったと思います!
ちなみにゲイリーはどんな機材と組み合わせても相性はいいと思いますが、私は出力が弱めのピックアップとクランチ気味に設定したアンプの組み合わせでプレイするのが好きですね。
<Jamie’s Settings>
◎パターン①
YES!:0
Oosh:ユニティ(原音と同じ音量設定)
ロングサステインの超ヘヴィなスクエア・ウェーブ・ファズですが、プレイを止めたとたんにゲートが掛かります。
◎パターン②
YES!:11時+EXPペダルに接続
Oosh:ユニティ(原音と同じ音量設定)
エクスプレッションペダルを接続すると、“Yes!”ノブで設定している ポジションがエクスプレッションペダルでコントロールできる最大値となります。私はだいたい11時くらいに設定することが多いですが、出力の高いピックアップのギターだともう少し下げて使います。
◎パターン③
Yes!にOld Blood Noise製Expression Ramperをつなぎ、Expression RamperのLFO速度を早めに設定すると、気持ち良いシンセサウンドを作ることができます。
◎パターン④
Go:3時
That‘s It:少しブースト気味に設定
とても自然なオーバードライブサウンドです。
細川雄一郎(CULT)
大手楽器店にて約10年間、エフェクターの専任として勤務し、多くの著名なプロミュージシャンから信頼を集め、2016年に独立。並行して担当していた専門誌での連載コラム、各種ムック本などでの執筆活動を続けながら、ギターテックとしても活動。エフェクターのコレクターとしても世界に名を知られており、自身のエフェクター専門ウェブショップ“CULT”を2018年にオープンし、2020年には自身のコレクションに関する書籍『CULT of Pedals』を執筆、リットーミュージックより出版された。ペダル以外にハンバーガーをこよなく愛し、ハンバーガーに関する書籍などにも登場することがある。
尾藤雅哉
2005年にリットーミュージック『ギター・マガジン』編集部でキャリアをスタートし、2014年からは『ギター・マガジン』編集長、2019年には同誌プロデューサーを歴任。担当編集書籍として『アベフトシ / THEE MICHELLE GUN ELEPHANT』、『CULT of Pedal』など。2021年に独立し、真島昌利『ROCK&ROLL RECORDER』、チバユウスケ『EVE OF DESTRUCTION』、古市コータロー『Heroes In My Life』の企画・編集を手がける。2024年には、コンテンツ・カンパニー“BITTERS.inc”を設立。
西槇太一
1980年東京生まれ。8年間ほどミュージシャンのマネージメント経験を経て、フォトグラファーに転身。スタジアムからライブハウスまで、さまざまなアーティストのライブで巻き起こる熱狂の瞬間を記録した写真の数々は、多方面から大きな支持を集めている。またミュージシャンの宣材写真やCDを始めとする音楽作品のジャケット、さらには楽器メーカーの製品写真の撮影なども手がけるなど、音楽シーンを中心に精力的に活動中。また自身のライフワークとして撮り続けている“家族写真”にスポットを当てた個展も不定期に開催している。