-月刊EQD-Vol.14
Yuichiro Hosokawa
<Vol.14>
Life Pedal / HalfLife(オクターブディストーション+ブースター)
<モデル発表日>
Life Pedal V1: 2019年6月19日
Life Pedal V2: 2020年1月9日
Life Pedal V3: 2022年11月3日
HalfLife Fer: 2025年12月9日
HalfLife: 2026年6月16日
<イントロダクション>
ブランドの創始者であるジェイミー・スティルマンにEQDペダルの開発秘話やオススメの使い方などを紹介してもらいながら、エフェクター研究家である細川雄一郎(CULT)の製品レビューを通して製品の魅力を紹介していく連載『Pedal of the Month -月刊EQD-』。第13回目に紹介するのは、Sunn O)))との共同開発によって誕生した、圧倒的な音圧を誇るライフペダル/ハーフライフ(オクターブディストーション&ブースター)です。
細川雄一郎(CULT)
まず最初に、このライフペダルはEQDとアメリカのバンド、Sunn O)))(サン)がコラボレーションしたことによって生まれた、特異なディストーション・ペダルです。“Sunn O)))て誰やねん?”、“初心って何やねん?”と疑問に思っているあなたのために少し説明すると、Sunn O)))はノイズ、アンビエント、ドローン・メタルと呼ばれる音楽ジャンルの第一線を走る2人組のアーティストであり、初心という言葉は、彼らが最も少ない編成である2人だけでライブ活動を行っていた時のコンセプト、同時期のライブ音源を収めたアルバムのタイトルを表わしています。
ライフペダルというモデル名がSunn O)))のアルバム・タイトル『Life Metal』から取られていることからも、このペダルがSunn O)))に寄り添ったペダルであることがわかると思います。このペダルの音を聴きたい、調べたいと思った方は、まずは最初にSunn O)))の音源を聴いてみて下さい。彼らの音楽を理解することこそ、このペダルを理解することと同義であると断言します。
Sunn O)))が『Life Metal』のレコーディングで使っていたビンテージのRATと、同じくビンテージのシンエイのFY-6(アッパー・オクターブ・ファズ)という2台のペダルを組み合わせたサウンドを再現することから生まれたというライフペダルですが、RATやFY-6を意識すればするほど、本モデルの真価をとらえ損なうことになります。
というのも、このライフペダルはRATとFY-6を足しただけのものでは決してなく、あくまでも暗黒的で硬質なドライブ・サウンドを作るためのギアなのです。実は私も実際に弾くまでは、“RATとFY-6を足し算しただけのペダルなんでしょ?”って思っていました。関係者の皆さんすみません。ライフペダルはそんな短絡的なペダルではありませんでした。
このペダルはAmplitude(ディストーション)、Octave (アッパーオクターブ)、Magnitude(ブースター)、以上の3つのセクションから作られており、それぞれのセクションにオン/オフ用のフットスイッチが設けられています。AmplitudeのセクションはRATの特徴を強く踏襲しており、コントロール系統も共通していますが、歪みの質感を変える3ポジションのスイッチ(Clipコントロール)が追加されており、歪みの荒さに3種類のバリエーションが作られています。
Octaveのセクションは、FY-6のアッパーオクターブ生成回路のみを抜き出したような設計になっており、Blendコントロールによってアッパーオクターブ成分を任意の量だけ歪みに混ぜることができます。このOctaveセクションのみ、単独で使用することはできず、Amplitudeセクションと同時に使用する必要があります。
最終段に用意されているブースター的なMagnitudeのセクションは、音量を大きく上げつつ、音量が上がっても耳に痛くならないように音色が整えられるような印象を受けました。このMagnitudeセクションは単独での使用もできるので、他の歪みエフェクターと併用することも良さそうですね。
ペダルの設計上、基本的なディストーション・サウンドはRATがベースになっているはずなのですが、RATよりも音が無機質、そして平面的で、例えるなら“壮大なコンクリートの壁”を想起させるような、フルレンジで硬質な音色に感じました。歪み量を上げれば上げるほど、その特徴は顕著になります。
そのディストーション・サウンドにOctaveセクションでアッパーオクターブを加えると、高域の質感が壊れ、暴れていきます。その壊れたディストーションサウンドをMagnitudeセクションで爆音にブチ上げれば、ダーク・ドローンにぴったりな世界観の出来上がり。ライフペダルはRAT、FY-6の代わりとして使おうと思ってもそこまで良い結果は得られず、このペダルだけが生み出せる、倍音が複雑に絡み合うドライなディストーション・サウンドを追い求めることが、このペダルの正しい使い方と言えるでしょう。
私はこのペダルをなるべく大きな音量で使用することが重要だと思っています。“音量が小さいと良い音にならない”……そんなよくあるレベルの話ではなく、このペダルの最大音量でギターを演奏した時だけに得られるカタルシスこそが、このペダルの持つ本質的な魅力なのです。低音が唸り、倍音が弾け、ギターの音が破綻する寸前の状態。それこそが、このライフペダルの持ち味だと思います。もしライフペダルを試奏する際は、ぜひ音量を最大にしてみてください。たぶん店員さんに怒られると思いますが、私(CULT細川)のせいにしていただいて構いません。
ジェイミー・スティルマン(EQD代表)
EQDの創立者であり、Sunn O)))との深い親交を持つジェイミー・スティルマン。アルバム“Life Metal”の制作現場から始まったこのプロジェクトについて、そして最新モデル“ハーフライフ”の誕生秘話までを語ってもらいました。
ライフペダルを開発するきっかけになったのは、Sunn O)))がシカゴにあるスティーヴ・アルビニのElectrical Audioで、ペダルの名前の由来にもなったアルバム『Life Metal』をレコーディングしていた時のことです。当時、グレッグ・アンダーソンとステファン・オマリーは、スタジオでさまざまなサウンドを試していました。その中でも、特によく使っていたのがRATとシンエイのファズを組み合わせたサウンドでした。それが、そのままライフペダル開発の出発点になっています。
彼らがそのサウンドをもとにしたペダルを本格的に作ろうと考え始めた時、僕らの共通の友人であるReverbのジム・トゥレクに “このプロジェクトを任せるなら誰が適任だろう?”と相談したんです。そしてジムが私たちEQDを、彼らに紹介してくれました。 当時の私は、本格的なアーティスト・シグネチャー・ペダルを作ろうとは考えていませんでした(※Kid KoalaのためにInterstellar Orbiterを作ったことはありましたが、あれは彼のプロジェクトのための製品という位置付けで、当時はアーティスト・モデルとは考えていませんでした)。とはいえ、ギター・サウンドへのこだわりや、その存在感という意味で、Sunn O)))は別格の存在でした。“これは最高の組み合わせになる”と感じ、まずはグレッグと電話で話す約束を取り付けました。
その電話は、簡単な自己紹介だけで済ませるつもりが、気が付けば1時間以上も話し込んでいました。お互いにパンク・シーンをルーツに持っていて、共通の友人もたくさんいたんです。それまで一度も会ったことがなかったことに対して、軽くショックを覚えたほどでした。電話を終えた私はすぐに工房へ戻り、共同経営者であり妻でもあるジュリー・ロビンスに“このプロジェクトはぜひやるべきだ”と伝えました。そして、この電話がきっかけでEQDとバンドとの素晴らしい友情が始まり、それ以来、現在に至るまで、さまざまなプロジェクトに取り組み続けています。
ライフペダルの歴代モデルに関するあらゆる要素は、グレッグとステファンが細部まで監修しています。回路のアイデアは、彼らがスタジオで実際に試してきたペダルの組み合わせから生まれたものです。ペダルのアートワークは、すべてステファンが手がけていて、製品発表で使う資料の多くも、彼ら自身が制作しています。
私は、彼らがこれほど積極的にプロジェクトへ関わり、自分たちが求めるものを明確に伝えてくれたことに対して、心から感謝するとともに、尊敬しています。彼らは細部まで見極める優れた目と耳を持っています。私の役割は、そうした彼らのサウンドに対するこだわりを、ひとつの使いやすいペダルとしてまとめ上げ、製品として世に送り出すことでした。
ライフペダルをコンパクトなサイズにしたハーフライフは、もともとは冗談のような会話から始まりました。グレッグが“飛行機での移動用にもっと小さなペダルボードが欲しい”と話していて、“それならライフペダルを小さくしてハーフライフって名前にしよう”と笑い合ったのが最初のきっかけだったんです。
その後、EQDの工場にSMT(表面実装)ラインを導入した時、真っ先に思い付いたのが、ライフペダル V3の回路をもっと小さな筐体へ収められないか、ということでした。
いくつかプロトタイプを作ってバンドへ持っていったところ、そのままそのアイデアで開発を進めることになりました。完成したハーフライフにはとても満足しています。サウンドと機能の両面で、V2とV3のちょうど中間に位置するような仕上がりになりました。そして、ステファンが手がけたアートワークも本当に素晴らしいです!
Half Life オクターブアップは外部エクスプレッションペダルから好きなだけ混ぜ込めます。 Photo by Geoff Crowe
KGR Harmonyと共同で制作し、アメリカ市場用で二百個限定発売された南部鉄器バージョンのHalf Life. SUNN O)))のメンバースティーブンも現地の工場を実際に見学し、筐体の制作に深く関わりました。Photo by Geoff Crowe
Life Pedal/Half Lifeの開発裏話のショート動画
<Jamie’s Settings>
Amplitude:ユニティ
Filter:10時
Distortion:最大
Clipping:Asymm
Octave:1時(必要に応じてスイッチ、またはEXPペダルを使用)
Magnitude:2時(ブーストが必要な時だけオン)
これは私のプレイ・スタイルに合ったセッティングです。芯のあるザラついたディストーションを基本にして、オクターブを加えると一気にワイルドでファズのようなサウンドへと変化します。
ライフペダルは、どんな機材とも相性良く使えますが、私としてはハムバッカー搭載のギターと、音量を上げて歪み始めるくらいにセッティングしたアンプとの組み合わせが特にオススメです。そして、できるだけ多くのスピーカーを鳴らしてほしいですね。
ひとつお伝えしておきたいのは、ライフペダルはSunn O)))のライブ・サウンドやSunnアンプのサウンドを再現するためのペダルではないということです。あくまで、彼らが“あのサウンド”を作り上げるために使っているツールの一つなんです。
細川雄一郎(CULT)
大手楽器店にて約10年間、エフェクターの専任として勤務し、多くの著名なプロミュージシャンから信頼を集め、2016年に独立。並行して担当していた専門誌での連載コラム、各種ムック本などでの執筆活動を続けながら、ギターテックとしても活動。エフェクターのコレクターとしても世界に名を知られており、自身のエフェクター専門ウェブショップ“CULT”を2018年にオープンし、2020年には自身のコレクションに関する書籍『CULT of Pedals』を執筆、リットーミュージックより出版された。ペダル以外にハンバーガーをこよなく愛し、ハンバーガーに関する書籍などにも登場することがある。
尾藤雅哉
2005年にリットーミュージック『ギター・マガジン』編集部でキャリアをスタートし、2014年からは『ギター・マガジン』編集長、2019年には同誌プロデューサーを歴任。担当編集書籍として『アベフトシ / THEE MICHELLE GUN ELEPHANT』、『CULT of Pedal』など。2021年に独立し、真島昌利『ROCK&ROLL RECORDER』、チバユウスケ『EVE OF DESTRUCTION』、古市コータロー『Heroes In My Life』の企画・編集を手がける。2024年には、コンテンツ・カンパニー“BITTERS.inc”を設立。
西槇太一
1980年東京生まれ。8年間ほどミュージシャンのマネージメント経験を経て、フォトグラファーに転身。スタジアムからライブハウスまで、さまざまなアーティストのライブで巻き起こる熱狂の瞬間を記録した写真の数々は、多方面から大きな支持を集めている。またミュージシャンの宣材写真やCDを始めとする音楽作品のジャケット、さらには楽器メーカーの製品写真の撮影なども手がけるなど、音楽シーンを中心に精力的に活動中。また自身のライフワークとして撮り続けている“家族写真”にスポットを当てた個展も不定期に開催している。






まず最初に、このライフペダルはEQDとアメリカのバンド、Sunn O)))(サン)がコラボレーションしたことによって生まれた、特異なディストーション・ペダルです。“Sunn O)))て誰やねん?”、“初心って何やねん?”と疑問に思っているあなたのために少し説明すると